「第12回桃山学院大学図書館書評賞」受賞者 <2017年12月1日発表>


第12回桃山学院大学図書館書評賞には35篇の応募作品が寄せられました。 図書館書評賞選考委員会で審査した結果、下記の通り受賞作が決定しましたので発表いたします。
受賞作品は、1月中旬に図書館内で発表いたします。

受賞作一覧はこちら。
最優秀書評賞 該当作品なし
優秀書評賞 東 紫苑 (国際教養学部3年次生)
末吉 里花 『はじめてのエシカル : 人、自然、未来にやさしい暮らしかた』
山川出版社 2016年
佳   作 崎山 和輝 (経済学部3年次生)
住野 よる 『君の膵臓をたべたい 』
双葉社 2015年
佳   作 八家 崇文 (経済学部3年次生)
堀川 惠子 『原爆供養塔 : 忘れられた遺骨の70年』
文芸春秋 2015年
佳   作 金岡 亮佑 (国際教養学部3年次生)
奥村 倫弘 『ネコがメディアを支配する : ネットニュースに未来はあるのか 』
中央公論新社 2017年




総合講評

図書館長 法学部 滝澤 仁唱

 『ハリー・ポッター』は、シングルマザーとして生活保護を受けつつ物語を書いていたJ・K・ローリングが発表したとたん、あっというまに世界的ベストセラーとなった。映画や種々の産業の基となったし、なり続けている。この物語を生み出すまでに彼女は多くの知識を先人の書籍から学び、あれだけの深みのある作品は生み出した。子どもだけでなく、大人も楽しめる物語となっているのはそのせいである。字面(じづら)だけおっても内容は理解できようが、一つ一つのシーンに意味があることを知るには、読者にも知識がいる。本を読めば、今まで自分の知らなかった先人の知恵を簡単に自分のものにできるし、行ったことのない場所にも行けるし、はるか昔や絶対に見ることができない未来へも旅できる。しかし、限られた人生で、すべての本を読むことはできず、その一つの導きとなるのが書評である。

今年の書評賞の応募件数は、35件であった(書式設定等の不備により審査対象外になったもの11件)。応募方法に不適合な書評の域に達しないもの、本の紹介や単なる感想文も多くあった。ネット社会で横行している剽窃(コピペ)がないか点検したのは、図書館事務課員の作業によるところが大きい。受賞作品の最終選考では、その本の内容を逐一照らし合わせ、書評が妥当か図書館委員が点検した。
 今年の入選は、優秀賞が1点および佳作3点であった。

 優秀賞は、末吉里花『はじめてのエシカル 人、自然、未来にやさしい暮らしかた』(山川出版社、2016年)である。我々が日ごろ安く大量に消費している商品の材料となるもの(例えば綿花)を収穫したり、作ったりするのに信じられない数の子どもたちが働いていたり、環境破壊が行われている現実がある。しかし、我々と生産者などとの間には「壁」があってそれが見えなくなっており、それを知らずに我々は大量の消費を楽しんでいるという認識からこの本は出発する。その「壁の向こう側」の厳しい現実に戸惑いを感じながらも、無理をせずにやれる範囲で「エシカルに」暮らすという本書の提案に、強い共感を持って書評が書かれている。内容を要領よく適切に紹介したうえで、評者は、素直な気持ちで、自分自身の生活を少しでも改善していこうという意識と、より多くの人々に「エシカル」を知ってもらいたいという著者と共通の願いを叙述している。読むものに好感を抱かせる書評といえるが、欲を言えば、独自の意見がほとんど見られない点が残念である。

 佳作は以下の三点である。
⑴ 住野よる『君の膵臓をたべたい』(双葉社、2015年)
「膵臓」(すいぞう)を「たべたい」というタイトルに興味を持った人に、この小説を読むことへの後押しをしてくれる書評だが、書店の手書きポップのような印象もある。なぜなら、ストーリーの評価やそこから感じ得た感想的なものは記述されているが、小説としての文章表現に関する評価がないからと思われる。実際にこの小説が登場人物の主に二人の台詞がずっと交互に続く書き方ですすめられており、細かな情景描写などはほとんどないからと思われるが、筆者の小説家としての特長や能力の限界を評せずにはいられないように思う。小説の中で起こる出来事をふまえて、読んで見たくなる気持ちを掻き立てるように要点を整理しているところは、うまく書けている。特に、評者自身の読後の変化としてあげている「思ったことを言葉にして伝えるようになった」という点は、主人公の二人が自分の気持ちを言葉にしてお互いに投げかけていくことでテンポよく進行していくこの小説を読んだ後だと、そういう気持ちの変化が起こるだろうと納得できる。評者は、この小説を「恋愛小説」と言い切っているが、疑問に感じる。評者は、書評の最後の部分で、「そこに何らかの意味を汲み取ることができたらもっと納得のいく結末になったのだが、それを理解することができなかった。」と述べている。そこにある意味こそが、恋愛小説という枠組みにおさまりきれないこの小説の重要な部分であるようにも思われる。

⑵ 堀川惠子『原爆供養塔 忘れられた遺骨の70年』(文藝春秋、2015年)
広島市や国は、臭いものに蓋をするかのように、原爆供養塔、闘う墓守の佐伯敏子さん、平和記念公園のコンクリートの下の色街、そのコンクリートの下に今も眠っておられる、朝鮮半島出身者、中国人も含め、何万もの方々を人目から隠してきた。ある朝、突然、放射能の何万度もの熱で一瞬にして黒焦げとなり、異常気圧で頭部が倍近く腫れ上がり、眼球が飛び出てぶら下がり、皮膚が溶けて垂れ下がる。「平和記念公園」は、本当は「地獄公園」というくだりは衝撃である。書評の冒頭のうまいつかみで、しっかりつかまれた。本の中で紹介されている「正義の戦争より不正義の平和の方がまし」という言葉は重い。戦争の善悪、是非どころではない。書評の点検時に本書を読みながら数回泣いた。

⑶ 奥村倫弘『「ネコがメディアを支配する ネットニュースに未来はあるのか』(中央公論新社、2017年)
全体としては内容がうまくまとめられており、対象図書に興味を抱かせる書評となっている。特に、この本の売りと思われるタイトルの「ネコがメディアを支配する」とは一体どういった意味か、という点についてしっかりと言及出来ているところは良かった。ただ、「ネコがメディアを支配する」、すなわちネットメディア上に質の低いコンテンツが氾濫し、重要なニュースが駆逐されつつある現状が生じた理由についてはもう少し詳しく記述すべきであろう。書評では、ネットメディアの退化の要因として広告収入依存型のビジネスモデルに言及しているが、その背景として人間が生来備えている感性と利益最大化の経済原理が作用しているが故に問題の解決が一筋縄ではいかない点についても記述してほしかった。



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