やりたい仕事なんてなくていい!目の前にあることを、
どうやれば上手くできるかを「考える」ことから始めよう!

私は今、2019年2月に弁天町にオープンする温泉型テーマパーク「空庭温泉」の惣年寄をしています。この施設は「安土桃山時代の町が現代にタイムスリップしてきた!」をコンセプトにしているため、責任者の私は安土桃山時代でいえば惣年寄にあたります。大学時代は音楽に明け暮れ、就職活動を始めたのも12月で、なんとか中小企業に入社。その後IT業界に潜り込み、SE職でコンサルティングに目覚め、外資系コンサルティングファームで再生を専門に担当するようになり、USJや日本マクドナルドなどの再生戦略を担った後、日立グループの経営戦略の部長職を経て現在に至ります。

世の中に出て一番肝心なのは何かというと、これからの世の中の変化を捉えること。これで人より一歩先に行けます。現代はSNSで「いいね!」をたくさんもらう、顧客からの「共感」が大切な時代です。こうした流れを捉えて事業を作っていく、簡単にいうなら「Amazon」に勝つビジネスを考えないといけない。ここにノンキャリアの活躍するポイントがあります。従来の学歴・知識が通用しない世界でこそ、私たちのような人材は活躍できるのです。

そのための戦略は多々あるのですが、一つだけ選ぶとするなら私は『孫子の兵法』を挙げます。戦いの心得は4つ、①敵を知りて己を知れば、百戦危うからず。②敵を知らずして己を知れば、一勝一負す。③敵を知らず己も知らざれば、戦うたびに必ず危うし。④百戦百勝は善ならざる者、戦わずして人の兵を屈するのは善の善なる者なり。と孫子は説いています。情報を収集して分析・活用すること、この情報に基づいて戦況を分析し準備することが勝機を引き寄せます。わかりやすい事例で説明すると、大企業を例えるなら武器が豊富なアメリカ軍。立ち向かう中小企業はベトナム軍のゲリラ作戦が功を奏したように、奇策を用いることが必須ということです。

学生のうちは「やりたい仕事なんてない」でも結構。巡りあった会社で、目の前にあることをどうやれば上手くできるかを考えることから始めてください。これがキャリアの出発点です。最初は会社からいわれる「やるべきこと」ばかりかもしれませんが、自分らしくあることを捨てずに「やりたいこと」のモチベーションや「やれること」のスキルを磨いてください。ロジカルに考えるためには『考える技術・書く技術』(バーバラ・ミント著)が役立ちます。この一冊で明快な論理構成や説得、問題解決のテクニックが学べます。仕事は「好きor嫌い」で選んでいいんです。

また、それぞれの業界には、その業界特有のキャリアスタンダードというものがあったりします。例えば、IT業界だとITSSPというスタンダードがあり、これを習得するとITのスキルを身に付けてキャリアアップができるというものです。しかし、これらの学習をして資格試験に合格しても、全くキャリアが開けていない人がたくさんいます。資格取得やテクニカルなスキルを身に付ければキャリアが開発できるというのは間違えです。

そうではなくて、人がキャリアを身に付けるメカニズムは、新入社員の時は真っ白な状態で「やりたいこと」などないのですが、成功体験や失敗体験、上司との関係、同僚との関係、自由裁量の余地、責任の重さなどの経験を通じて「やりたいこと」、「やりたくないこと」が形成され、それがキャリアを方向付けて行きます。資格を取ったり、お勉強でスキルを身に付けたりしても、全くキャリアの方向付けになんてならないのです。つまり、「やりたいこと」なんていうのは、会社に入って切磋琢磨しているうちに見つかることなので、はじめからなくて良いのです。

どんな企業に就職しても5年のあいだに自分を知り、様々な経験を積むこと。どんな仕事でも徹底的に打ち込めば、5年あれば一通りのスキルやノウハウなんて自然に身に付きます。今の時代、1つの会社で5年我慢すれば、次のステップに行って良い(転職して良い)です。いや、むしろそれ以上ダラダラと1つの会社にしがみつくのは止めた方が良い。転職によって次のステージで新たな経験を積み、キャリアアップを重ねるのが良いです。


「キャリア教育科目—卒業生経営者から学ぶ社会人に必要な力」より