(2018年9月、東京のギャラリー「MEM」にて開催された元田敬三展『御意見無用』)

無限に広がる世界から選んだこと。それが写真だった。

2018年9月、東京・恵比寿。アートギャラリーにて写真展が開催されていた。真っ白な壁面に際立つのは、道行く人々を撮影した、力強い写真の数々。創作者は、「自由」「自然体」という言葉が似合う路上写真家・元田敬三。桃山学院大学 経済学部の卒業生だ。
大学4年生の時、元田はふとテレビである言葉を耳にした。「就職しないという決断をした瞬間、世界が無限に広がる」。就職という既定路線に違和感があった元田は、その言葉に大きく背中を押され、内定していた企業に断りを入れた。
手に職をつけたいと考えるようになった元田は、写真家が主人公のドラマを見て、心をひかれた。「家に一眼レフのカメラがあったので使うようになりました。マニュアル本を見ながらシャッタースピードや取りこむ光の量を変えて、いろんな写真を撮るのが楽しくて」。元田はその魅力に夢中になっていった。 独学でカメラの操作を覚えながら、街へ出ては「人」を撮影。「撮らせてくださいと話しかけ、会話をします。そこには、自分が知らなかった世界との出会いがたくさんあり、常に新鮮な気持ちになれました」。

「準太陽賞」を受賞し、写真家の道へ。

プロをめざし、写真学科のある専門学校へ通うことにした元田は、写真家の講師たちと出会う中で、その決意を不動のものとした。「ファッションも生き方も個性的でかっこいい。自分も30代、40代にこんな大人になっていたいと思い、写真の道を選んだことが正解だったと確信しました」。
入学して1 年が経とうとする頃、元田は大きな転機を迎えた。雑誌『太陽』が主宰する、名だたる写真家を輩出してきた「太陽賞」。元田は見事、その「準太陽賞」を受賞した。街で出会った人物を強い印象でとらえた写真のみならず、撮影時の状況やその人について、元田が書いた文章を添えるスタイルが特徴的であり、斬新だった。受賞作品は新聞社の目にとまり、『ON THE STREET 路上で出会った人々』と題した写真コラムの連載もスタート。「その時、日本の写真界の入口に立てた気がしました」。

終わらない出会いと、変わらないスタイル。

作品づくり、写真展の開催、専門学校の講師など、さまざまな仕事に取り組む元田の写真家人生は、20年を超えた。しかし、路上で人々の写真を撮るというスタイルは変わっていない。「事前に何も決めず、まっさらな気持ちで街を歩き、『ワッ!』と心を奪われる人がいれば撮影をお願いしています」。その時の反応は人それぞれ。会話の内容もさまざま。つねに知らない人と出会い、新しい発見がある。元田にとってそれは驚きの連続であり、終わりがないという。
「ただ目的地へ歩くだけでは気づかない、路上写真家だからこそ出会えるさまざまな人がいる。それをリアルに伝えたい。一方で、誰もが同じ人間。時代が変わると世の中も変わりますが、人と人との関わりは変わらない。『はじめまして』から撮影がはじまり『ありがとう』で終わる。作品を通じて、そんな人々の姿を伝えたい」。

想定外のものができた時、驚くような作品になる。

作品づくりにおいて、創作意欲にブレーキをかけないことが大切だと元田は語る。「どんどん撮って行動するべき。アートとは自由に表現するもので、失敗もできる自由がある。失敗が失敗じゃなくなる時もある。そこには制限なんてない。想定通りの作品ではなく、まったく想定外のものができて『なにこれ!』って思えた時こそ、自分の100%を超えて、120%、200%の作品になる。自分が自分の作品に驚けば、見た人もきっと驚く。それがアートだと思います」。
元田の創作意欲には終わりがなく、到達点もない。彼はこれからも街を歩き続けるだろう。まだ見ぬ出会い、心を奪われる瞬間を求めて。

(※この内容は2018年9月取材時のものです)