- 名前
- 北坂 規朗
- 学科
- 2006年 法学部 法律学科卒業
- 会社
- ノースヒルズ溶接工業株式会社 代表取締役
日本の大手企業を支えているのは、私たちのような中小企業の技術力。 まわり道をしながらも、出会いを活かし夢に向かって前進を。
私が通っていた高校は近畿二府四県から生徒が集まってくるような学校で、中には高校生ながら海外企業と取引をしたり、自身でプロバイダーの会社を立ち上げた人がいるなど、起業精神にあふれた環境でした。彼らは「なぜ勉強しないの?おもしろいし儲かるのに」と、当時あまり勉強に身が入っていなかった私に衝撃を与えました。というのも、私にも起業する夢があったのですが、ただ「何かを形にしたい」という思いがあったくらいで出遅れた感じがしたからです。そこからビジネス書を読む習慣が身につき、起業に役立つからと法学部に進学。大学時代はアルバイトとゲーム三昧ではありましたが、様々なアルバイト先で多くの社会人と出会ったことで、生きる上での大きな刺激を受けました。
就職活動では夢を追って不動産デベロッパーを受験したもののことごとく落選。OA機器やオフィス家具を取り扱う会社に就職して営業として働き始めましたが売上げが伸びず、上司から「お前が物を売れないのは、物の価値がわかっていないから。もし辞めるなら、一旦製造業に行ってみろ」といわれたのをきっかけに転職し、半導体装置メーカーの製造現場で働くことに。そこでも「30才までに起業しよう」と夢を持ち続けていたところ、溶接に多大な実績を持っていた製造部長と意気投合し、溶接屋を創業することを決意。2012年、当社設立に至りました。
“溶接”と聞くと、バチバチと火花が飛ぶ工場を思い描かれがちですが、当社が得意とするのは青白い光で繊細な作業に向くTIG溶接、YAGレーザー溶接、ロウ付け溶接。飛行機やロケットの部品を溶接することもあれば、顕微鏡を見ながらカテーテルの中のワイヤーを溶接することもあります。また、iPhoneや有機ELといった次世代製品の部品や新薬を作るための装置など、溶接で関わる分野は多岐にわたり、現在では大手製造会社や大学、スポーツメーカー等と提携して、素材開発分野での産学共同研究も手がけるようになりました。
みなさんの中には大手企業への就職を希望されている方が多いかもしれませんが、日本企業全体における大手企業の割合はたった0.3%で、その事業を支えているのは我々のような中小企業の技術です。現在、金属3Dプリンタが開発されていますが、あれも溶接の技術を応用したもの。薄い金属を積層して立体に成型するという柔軟な発想が、今後、モノづくり以外でも幅広く求められてくるのではないでしょうか。
現在、製造業の倒産が増えている原因の一つは、熟練工がいなくなっていることだといわれています。それを解決するために、当社は熟練工の持つ技術をデジタル化するセンシング技術を使ったAIロボットの開発を検討しており、溶接業界に産業革命を起こしたいと考えています。また、溶接技術のライセンスを発行したり、溶接アドバイザーとして技術を提供するビジネスを進めることも今後の展望としてあるでしょう。将来、溶接工が衰退していったとしても、溶接は旧石器時代から続いてきた歴史のある技術。3Dプリンタのような新しい形で残っていくはずですので、今後は後世の技術基盤となるための新しい溶接方法を日々開発していきたいと思っています。
(※この内容(学年表記含む)は2019年10月取材時のものです。)