全学の学生が研究成果を競う「学生研究発表大会」において、2021年度以来4年ぶりとなる最優秀賞受賞者が誕生しました。受賞したのは、ビジネスデザイン学部4年次の山内瑚雪さんです。
山内さんは、卒業論文「時代背景からみる、さるかに合戦の変化と教育的倫理観とのつながり」をもとにプレゼンテーションを行い、研究の意義や学術性、発表の論理性の高さが評価されました。
社会課題の解決を志向したビジネスプランの作成を特色とするビジネスデザイン学部。その学びがどのように研究にも生かされたのかについて、山内さんに語ってもらいました。

関心の変化からたどり着いた研究テーマ

私が選択した稲田優子ゼミでは卒業論文の提出が必須です。稲田先生の専門はアントレプレナーシップですが、「自分の人生を自分でデザインする」という指導方針のもと、学生一人ひとりが関心に基づいたテーマで研究に取り組むことができます。
留学を志望していた私は当初、日本の英語教育に課題があるのではないか、日本人が英語を話せるようにならない背景には教育の在り方が影響しているのではないか、という問題意識から研究をスタートしました。しかし、検討を重ねる中で自身の関心との適合性に課題を感じ、テーマの再考に至りました。そこで、自宅に多くの絵本があり、幼少期に読み聞かせを受けていた経験を手がかりに、絵本を題材とした研究へと方向転換しました。
題材については、広く認知されており比較・分析が可能である点を重視し、「さるかに合戦」を選定しました。先行研究を踏まえ、①時代によって物語の内容や結末はどのように変化しているのか、②その変化は時代背景や教育史とどのように関連しているのか、というリサーチクエスチョンを設定しました。

70冊から見えてきた物語の変化

大阪府立中央図書館国際児童文学館および国立国会図書館サーチを活用し、江戸時代から現代に至るまで、「さるかに合戦」「さるとかに」「かにむかし」といったタイトルを含む物語や絵本、計70冊を調査しました。
最も古い資料は、江戸時代後期の1783年に恋川春町が著した『猿蟹遠昔噺』です。本文はくずし字で記されていたため、そのままでは読み解くことが難しく、国文学研究資料館が作成した「くずし字データセット」を活用したアプリで解読し、さらにAIを用いて現代語訳を行いました。加えて、明治・大正期の15冊、昭和期の35冊、平成・令和期の19冊を読み進め、時代ごとの変遷を比較しました。
「さるかに合戦」は、猿と蟹が食べ物を交換することから物語が始まり、成長した柿の木をめぐる出来事を経て、最終的には蟹の子どもたちが仲間とともに猿へ復讐するという筋立てで広く知られています。本研究では、この基本的な構造を踏まえつつ、時代によってストーリーの一部に変化が見られる一方で、共通して受け継がれている要素も存在することを明らかにしました。

図書館での地道な作業に加え、最新のアプリやAIを駆使しながら
70にも及ぶ過去の「さるかに合戦」を読みこみました。

データから見えてきた結末の変化と、その背景

蟹と猿の生死に着目して整理すると、蟹が生き残る割合は明治・大正期で40.00%、昭和期で36.36%、平成・令和期で36.84%と大きな変化は見られませんでした。一方で、猿が生き残る割合は明治・大正期の15.38%から昭和以降は70%近くへと大きく増加しており、結末の在り方に顕著な変化があることが分かりました。
特に印象的だったのは、物語の冒頭にあたる「猿が投げた柿によって蟹が命を落とす」という展開が、時代を通じて大きくは変化していなかった点です。その一方で、復讐の結果として猿が命を落とすかどうか、またその描かれ方については、時代ごとに大きく変化していることが確認できました。
初期の作品では、猿は子蟹のハサミによって斬首されるなど、明確に命を奪われる結末が多く見られます。しかし次第に、臼に押しつぶされるといった別の表現へと変化し、さらに時代が進むにつれて、猿が反省・謝罪し、最終的に和解することで生き残る結末が主流となっていきました。こうした変化の背景には、明治時代前半に刑罰としての斬首が廃止されたことが影響していると考えられます。
また、明治・大正期には猿が命を落とす結末が多く、「因果応報」といった言葉があとがきに記される例も見られました。そこから大きな転換点となったのが、1938年に内務省が示した「児童読物改善に関する内務省指示要綱」です。低俗とされる表現の排除や、対象年齢に応じた言葉遣い・漢字使用の統制が行われたことで、物語表現にも変化が生じたと考えられます。さらに、1945年の敗戦を挟んだ戦後には、猿が謝罪し和解する結末が増え、謝ることの大切さや思いやりといった価値観を重視する物語へと移行していきました。
それでもなお、物語の冒頭で蟹が命を落とす展開が維持されている点については、強い印象を残す出来事ほど記憶に残りやすいという「フォン・レストルフ効果」が関係していると考えられます。衝撃的な出来事を通じて、思いやりや優しさといった教訓が、成長後も想起されやすくなる構造が働いているのではないかと捉えています。

チームと個人、両面の力を育んだ学部での学び

出身の香里ヌヴェール学院高校で取り組んだ探究型授業に魅力を感じ、その学びをさらに深めたいと考えてビジネスデザイン学部に進学しました。学部の特色であるPBLやドメイン科目などの課題解決型授業では、企業から提示された課題に対し、グループでビジネスプランを検討します。しかし、メンバー全員の熱量やモチベーションをそろえることは容易ではなく、チームとして一体感を生み出す難しさを実感しました。同時に、それが実現できたときの価値の大きさも学び、将来、組織の一員として働くうえで重要な経験になったと感じています。
一方で、自ら設定したテーマに向き合う研究には、また異なる面白さがありました。国際児童文学館で「さるかに合戦」の資料を読み進めていると、時間を忘れて没頭することも多く、卒業論文に取り組んだからこそ触れることができた教育史や時代背景の分析にも、大きな魅力を感じました。
個人で進める研究は、自分自身でペースを調整できる点も特徴です。その日のコンディションに応じて進め方を工夫しながら取り組む中で、自分に合った学び方や研究との向き合い方を見出すことができたと感じています。

高校で出会った探究の学びに、大学でさらに磨きをかけた。
その結果、4年ぶりの最優秀賞受賞につながった。

二つの学びを力に、これからのキャリアへ

ビジネスプランの作成では、課題を提示していただいた企業の方に対して、その必要性や実現可能性を納得してもらうことが求められます。そのためには、十分な情報量と正確性が不可欠であり、さまざまな調査を重ねて根拠を積み上げていきます。こうした姿勢は研究にも通じており、「どこに弱点があるのか」「それを補うためにどのような情報が必要か」を見極める力として、ビジネスプラン作成での学びが生かされていると感じました。
また、ビジネスプラン作成は多くの場合、企業や教員から提示された課題に取り組むのに対し、研究は自ら課題を設定し、先行研究を踏まえてリサーチクエスチョンを構築していきます。グループで進めるビジネスプランと、一人で深める研究。この二つの異なる学びを経験できたことは、ビジネスデザイン学部ならではの大きな特徴であり、自身の成長につながったと感じています。
卒業後は企業で働く予定ですが、グループワークを通じて培った組織を動かす力と、研究を通じて身につけた主体的に課題に向き合う粘り強さの双方を生かしていきたいと考えています。ビジネスデザイン学部で得た、いわば「二つの学び」を土台に、これからのキャリアを切り拓いていきたいと思います。

春からは社会人。大学での学びや磨き上げた研究力で、
これからは未来を切り拓いていきたいです。

▼山内さんの発表動画は、以下のURLでご覧いただけます。
https://youtu.be/0o_xdk7qQgY


(※この内容は2026年3月取材時のものです。)

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