「第6回桃山学院大学図書館書評賞」受賞者 <2011年12月1日発表>


第6回桃山学院大学図書館書評賞には47篇の応募作品が寄せられました。 図書館書評賞選考委員会で審査した結果、下記の通り受賞作が決定しましたので 発表します。

受賞作一覧はこちら。
最優秀書評賞 該当作品なし
優秀書評賞 楠本 雅也 (社会学部3年次生)
森 達也 『放送禁止歌』
解放出版社  2000年
  山本 麻梨子 (経済学部3年次生)
生野 照子 『リストカットの向こうへ』
新潮社  2009年
佳   作 小林 寛史 (経済学部2年次生)
マイケル・モーリッツ 『スティーブ・ジョブズの王国』
プレジデント社  2010年
  石井 彩美 (社会学部3年次生)
山田 登世子 『シャネル-最強ブランドの秘密』
朝日新聞社  2008年
  田治見 圭祐 (経済学部3年次生)
安藤 哲也 『本屋はサイコー!』
新潮社  2001年
  増永 勝樹 (経済学部3年次生)
湯浅  誠 『反貧困 : 「すべり台社会」からの脱出』
岩波書店  2008年
  井上 知哉 (経済学部3年次生)
ロバート・ウェストール 『ブラッカムの爆撃機』
岩波書店  2006年




総合講評

図書館長 経営学部教授 山本順一
 必ずしも‘豊かな人間性’につながるものとは思っていないが、人間がひとつの事件、事柄が多種多様な要素、利害関係から構成されており、それらを解きほぐしながら、総合的な比較衡量ができ、柔軟な論理的思考ができるようになるトレーニングとして、アタマの柔らかな若い人たちにとっては、読書が大切だと思っている。わたしのような年寄りには、廃用性萎縮からくる機能劣化のボケ防止のために、読書はかけがえのない価値をもつものだとの認識を持っている。
 濃密な読書習慣を身につけていただくひとつの教育的手段として、学生諸君に書評を書いてもらうことは効果的で、その効果を極大化するうえで優れた作品を顕彰することは大いに意味があると思う。そのような趣旨の実現を図る‘桃山学院大学図書館書評賞’という年に一度のイベントも今回で6回目を数える。学内的にはすっかり定着をみた(今回の応募者が47名というのは、昨年度実績を大幅に下回っており、ちょっと悲しい現実である)。もっとも、個人的には、緻密な論理性を養うという観点からすれば、わずか1,500字程度というのはあまりにも分量的に少なすぎ、評者には物足りなさがついて回らざるを得ないという印象をぬぐえない。実際に図書館委員の先生方と一緒に審査にあたり、個々の作品を読んだわけであるが、取り上げた書物の構成、内容を紹介したうえで、自分なりの批評、批判、評価を加えるということでは、学生諸君にとっても相当に窮屈だったはずである。
 本論に入る。わたしを含め、各学部から出ている5人の教員が慎重な検討を加え、審議を重ねた結果、最優秀賞こそないが(繰り返しになるが、俳句や短歌ではあるまいし、こんなに少ない分量で衆目の一致する形で、大学生に期待する緻密で洒落た説得力のある人文社会科学的文章が整うとは、個人的には思わない)、優秀賞2点、佳作5点を選んだ。日頃から社会科学の基礎を身につけてほしいと学生たちに願っている、主として社会科学を専攻する教員が選考にあたったことから、対象としてとりあげた作品自体のもつ社会経済的な問題性が大きく影響し、私小説のような文学作品を結果的に排除するかたちになるのはやむを得ないと思う。以下、図書館委員の先生方のご意見を踏まえながら、書評の短評を記すことにしたい。
 優秀書評賞に輝いたのは、楠本雅也くんの「放送禁止歌」と山本麻梨子さんの「リストカットの向こうへ」である。楠本くんは、大統領を正面からこき下ろして映画作品がつくれ、それを市民が楽しめる国と比較したとき、この国の流行歌を生み出す人たちとそれを放送する企業、関係者たち、さらにはリスナーたちとの間になかば無意識のうちに存在する社会性の欠如、明確な個性的価値観をもたぬ萎縮した精神構造を指摘する。山本さんは、若者たちにひそかに流行するリストカットが死ぬためのものではなく、ゆがんだ生の営みであることを伝えてくれる。
 佳作は、小林寛史くんの「スティーブ・ジョブズの王国」、石井彩美さんの「シャネル:最強ブランドの秘密」、田治見圭祐くんの「本屋はサイコー」、増永勝樹くんの「反貧困」、そして井上知哉くんの「ブラッカムの爆撃機」の5作品である。小林くんは、昨2011年10月に死亡したアップル社の共同創業者であるジョブズについて、その付和雷同せず屹立した見方、ものの考え方がPCの黎明期から今日までを切り拓いた事実とそれが豊かな生き方につながっていることを読み解いている。‘ブランドを自慢する馬鹿’な自分に気づいた石井さんは、20世紀のファッション界の革命家ココ・シャネルの富者の‘金ピカ’を否定、身なりがパッとしている豊かな女づくりを目指した‘働く女’に共感している。書籍小売店でアルバイトをしている田治見くんは、出版取次のパターン配本を否定し、具体的なマーケット分析にたつ往来堂書店のビジネス・モデルに感嘆の声をあげる。一見微温的で豊かそうに見える福祉国家に生活する増永くんは、ちょっとボタンを掛け違えると、たちまち‘五重の排除’が作動し、‘すべり台’を転がり落ち、巨大な貧困が口をあけて待っている日本社会の構造を何とかしたいと願う心優しい青年である。キタの将軍様が亡くなり、軍事的緊張が地元住民の望まぬ、同盟の神話のもとに外国軍基地の移転増強を進める状況の中で、井上くんはどの程度戦争というものを身近に感じているかは分からないが、第二次世界大戦の西部戦線でのイギリス空軍の秘話を描いた童話を興味深く紹介している。
 本学の読書家たちが積極的に応募してくれたからこそ、この書評賞活動が大きな意義をもつ。もっとも、5学部全体からバランスよく応募し、受賞者の在籍学部もばらけていることが望ましいように思うが、残念ながら、経済学部の学生たちの特筆すべき活躍で終始したことには問題を感じ、新たな課題を抱え込んだような気がしないでもない。4万字の卒業論文を課す河内長野市の私立高校が図書館業界で拍手喝采を浴びていることに想到すれば、表面的な学力養成や就業力に注力するほか、この書評賞のあり方を見直し、本学の図書館利活用教育にももっと真剣に取り組むべきようにも思う。
 いずれにせよ、めでたく書評賞の優秀賞、佳作の表彰を受けられる学生諸賢には、心よりおめでとうと言いたい。ほめてあげたい。そして、みずからの人生を豊かにするためにさらに読書に耽ってほしい。


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