「第7回桃山学院大学図書館書評賞」受賞者 <2012年12月3日発表>


第7回桃山学院大学図書館書評賞には44篇の応募作品が寄せられました。 図書館書評賞選考委員会で審査した結果、下記の通り受賞作が決定しましたので発表いたします。
受賞作品は、1月中旬に図書館内で発表いたします。

受賞作一覧はこちら。
最優秀書評賞 該当作品なし
優秀書評賞 大山 夏奈 (社会学部3年次生)
重松 清 『希望の地図:3.11から始まる物語』
幻冬舎 2012年

※受賞にあたっての感想はこちら(PDF:69KB)

佳   作 柴田 大輝 (経済学部3年次生)
マーラ・ヴィステンドール 『女性のいない社会:性比不均衡がもたらす恐怖のシナリオ』
講談社  2012年
  三好 菜月 (経済学部1年次生)
楊  逸 『金魚生活』
文藝春秋  2009年




総合講評

図書館長 経営学部教授 山本順一
 わたしたちがものを考える場合には、読書は不可欠です。科学技術が大いに進展した、この21世紀の世の中は、従来は通用したかに見える伝統的なものの見方、考え方、理論、学説がステレオタイプ化し、中途半端なイデオロギーのようなものに堕し、処方箋を提示しえていないように思われます。いままで以上に考えること、critical thinkingが大切になっていることを確信しています。そのためには、しっかり大学の授業を理解する一方、デジタルの時代になっても、いままで以上にわたしたちは読書(電子書籍などデジタルコンテンツを含みます)に励む必要があります。ここでいう読書は必ずしも文学作品を意味するのではなく、理科読とか科学読み物という言葉がありますが、わたしたち教員が希望しているのは、本学は社会科学系の大学ですので、どちらかといえば人と社会を対象にしっかり考える読書を期待しています。

 多くの大学において、大きな意義をもつ学生たちの読書習慣を振興するべく‘書評賞’というコンテストを実施しています。本学もまた同様のイベントを実施するようになって、今回で7回目を迎えました。今回の応募は44名で、これは例年と比べてもそう変化がみられず、全学生の1パーセントにも満たない有様です。困ったものです。応募してくださった素晴らしい学生さんたちの作品のなかに剽窃がみられたことも残念なことでした。
 ‘A4判1枚程度に収めてください’ということですので、じっくりと考えた成果とはみなしにくいのですが、それなりに優れた視点、捉え方がうかがえる作品があり、わたしたち選者はそのような3つの作品を選びました。

 結果は、今回も最優秀賞は該当なしで少し残念な思いをしています。優秀賞は、大山夏奈さんの「希望の地図:3.11から始まる物語」をとりあげられた作品です。少し長くなりますが、直接審査にあたられた教員の選評を引用させていただきます。「この書評は、物語が醸し出す全体的な‘雰囲気’がうまく表現されている。とりわけ、主人公である中学1年生の少年が有する意外なほど‘大人びた’観察眼について、書評の文面から感じ取ることができる点は秀逸である。また、ボランティア活動に参加しなかったこと(後悔)や、司書を目指していること(夢)など、評者の揺れ動く気持ちが物語のエピソードと絡み合って、評者の未来に対する‘希望’を感じさせるものとなっている。この書評では、物語を引用して、‘希望’と‘絶望’が表裏一体であることを指摘しているが、この物語の真のテーマは、‘希望’という言葉そのものが有する意義(内容)であるように思われる(少年を潰したとされる‘期待’もまた、‘希望’の一部ではなかったのか)。その意味において、評者が取り上げている、エピローグの「石巻からの手紙」は、第二章で紹介されている「田村のエッセイ」との関係において(あるいは、一体のものとして)評する方が、より的確な書評になったのかもしれない」と述べられています。時宜に適した素材選びにも、優れたセンスがうかがえます。
 佳作は2編を選びました。ひとつは柴田大輝さんの書かれた翻訳の「女性のいない世界:性比不均衡がもたらす恐怖のシナリオ」についての書評です。このテーマに比較的近い研究をされてきた教員は、「たいへん難しいテーマの著作に取り組んだ姿勢は評価できます」と述べられています。特定の歴史的、社会経済的文脈から、男の子、女の子のいずれかの性別の子どもをほしがる地域や国々のありようが自然の性比を大きく歪ませている現実は、非婚、晩婚、少子化、セックスフル、セックスレスなどの先進諸国の状況と重ね合わせたとき、非常に重たいものとなります。アジア地域では、余剰男性と売買婚という看過できない現象を招いています。
 いまひとつの佳作は三好菜月さんの「金魚生活」という芥川賞作家の楊逸(ヤンイー)の作品を対象とした書評です。中国籍の作家の日本語らしからぬ日本語の言い回し、中国人の感性が示された作品で、日本人の書いた文学作品に親しんだ読者にとっては新鮮だと思いますし、書評もこの作品の主人公の初老の婦人の想いを上手に論じているように思います。この書評が高く評価された理由も作品の選び方にあったように感じます。

 村上春樹や東野圭吾、太宰治や江戸川乱歩、有川浩まで、硬軟取り混ぜていろんなジャンルの文学作品を対象とした書評はあったのですが、社会科学系の学部が主力のこの大学のイベントですので、経済や経営、行動科学に属する書物をとりあげたものが過半を占めていたのは当然かと思います。

 これからの社会を背負っていかなければならない学生さんたちには、他人の受け売りをするのではなく、自分のアタマのなかで知識をこしらえていただかなければなりません。財政にいささか陰りはみられ、資料選択に苦しさが伴っているのですが、附属図書館は学生さんたちに賢くなってもらえる資料の充実に努めます。ひとりでも多くの学生さんたちに図書館を利用していただき、来年はもっと多くの応募があるように期待いたします。


第7回の応募要項はこちら





≪≪過去の書評賞≫≫

     第1回     第2回     第3回     第4回     第5回

     第6回