「第9回桃山学院大学図書館書評賞」受賞者 <2014年12月3日発表>


第9回桃山学院大学図書館書評賞には39篇の応募作品が寄せられました。 図書館書評賞選考委員会で審査した結果、下記の通り受賞作が決定しましたので発表いたします。
受賞作品は、1月中旬に図書館内で発表いたします。

受賞作一覧はこちら。
最優秀書評賞 該当作品なし
優秀書評賞 大草  みどり (法学部1年次生)
野中 猛 『心の病:回復への道』
岩波書店 2012年
佳   作 井窪  あやみ (経済学部3年次生)
加地 倫三 『たくらむ技術』
新潮社 2012年




総合講評

図書館長 法学部教授 瀧澤 仁唱

 「本は知識の宝庫」などと昔から言われてきた。しかし、すべての本がそうとは限らない。「羊頭狗肉」の本もあれば、羊頭もないスカスカのものもある。発信力がものを言う時代なので、内容がなくても宣伝がうまかったり、目立つものがよく売れる場合もある。インターネットではアクセス数がものを言うので、「数」だけ増やすための方法も編み出される。限られた人生で良い本にあたれば、長年つちかった先人の知恵を自分のものにできるが、下らない内容の本では、時間の無駄になる上に誤った知識を植え込まれかねない。読むべき本を選ぶことの大切さは言うまでもない。そのために書評があり、書評はいわば「道しるべ」である。
 しかし、書評は「道しるべ」だけでなく評された本をさらに高みにもっていくためのものでなくてはならない。書評をするには、まずその本にどのような内容が書かれてあるかを理解する必要がある。理解したら感想がわくけれども、さらにその感想をもとに、その本をさらによい本にするにはどこをどのように変えていくべきかを考え、記す必要がある。この水準にまでいたらない書評は、感想文に近く、真の意味の書評とはいえない。そこには本や著者への尊敬が必要であり、ネットに見られるような揶揄や揚げ足取りであってならないのはもちろんである。ただ本の内容を理解するといっても、理解しようとする意欲と理解する能力がないと理解できない。そのためには読者の日頃の研鑽も必要である。
 以下、やや辛口な表現をお許しいただくとして総合講評を述べる。

 今年の書評応募点数は39点で、昨年の42点よりさらに減った。応募フォームが整っていないもの、書評する本が出版後6年以上たっているものなどで審査対象外になったものが16点あった。内容が良かったものもあり、惜しまれる。入選は、昨年は佳作1点であったが、今年度は優秀書評賞1点および佳作1点であった。選考にあたった図書館委員の意見をおおまかにまとめれば、応募された「書評」の多くは本の紹介に過ぎなかったり、単なる感想文であったりしたものも多かった。一応書評といえそうなものについては、ネット社会で横行している剽窃はないかなどを点検した。これは図書館事務課員の点検作業によるところが大きい。最終選考では、応募された「書評」とその本の内容を逐一照らし合わせ、内容が妥当かどうか図書館委員が点検し、授賞すべきかどうかさらに検討した。
 優秀書評賞となったのは野中猛(のなかたけし)『心の病:回復への道』(岩波書店、2012年)である。これは、精神科医の著者(故人)が、医師となって成長していく過程を縦軸に、精神医療に関わる制度の歴史、現状、諸外国と日本との比較、精神障害者の医療および福祉と今後について、非常にもりだくさんな内容をかなり簡潔にまとめて新書にしたものである。著者の人間一般に対する深い愛情に裏打ちされた記述があちこちに見られ、初学者への本であると著者は記しながら、読者の能力により、極めて多くの示唆に富む本となっている。新書でありながら、読み手の能力でいくらでも深い理解の得られる本である。評者がこれに気づいたかどうかはわからないが、良い本を選んだと思われる。
 優秀書評賞となった書評を読んでみると、単に書評を書いただけでなく、この本の紹介などを参考にしているようであるけれども、それに引きずられてはいない。本の内容紹介の分量を書評原稿の半分以下におさえ、さらに自己の見解をきちんと展開している。底本の章立てがしっかりなされているため、まとめやすかったとしても、本の内容紹介で原稿の大半を費やしてしまうような「書評」が多かったのに比べて、群を抜いた書評であったといえる。著者の意見に対して評者が賛否を述べているのは書評としては面白いけれども、その本の内容を深めていくという点ではやや物足りなさを感じた。そこを克服するのは至難の業であるかもしれないが、それができていたならば「最優秀書評賞」となった可能性がある。

 佳作となった加地倫三(かぢりんぞう)『たくらむ技術』(新潮社、2012年)は、その書名のインパクトからすると、視聴率さえとれれば良いとして作られる、人気お笑い番組(その賛否は問わないが)ディレクターの本(著書というより、口述筆記を思わせる)だと思って読んでしまいかねない。読み始めて、思ったとおりの下らない暴露話だと思っていたが、読み進めていくうちに、それが極めて表面的な読み方だと気づかされ、これが著者の本当の「たくらみ」だったのかもしれないと思うにいたった。お笑い番組でも視聴者を傷つけたり、不快な思いをさせないように著者が細心の注意をはらい、出演者だけでなく番組作りに関わるスタッフ全てに尊敬の念をいだいていることを思い知らされた。ほとんど芸のない人間が下らない「楽屋話」をだらだらとおしゃべりしているだけの番組を著者が作ってきたかと思っていたら、実はその芸人がしろうとでは想像もつかない努力をし、並はずれた能力の持ち主であることが分かった。そのような内部事情を知らずに表面的な批判をすべきではないとこの本は教えてくれた。
 同書の書評は、内容紹介に苦労の後がみられる。底本自体の章立てが必ずしも理路整然としているわけではないからである。そのため、書評部分がやや不十分となったため、残念ながら佳作の水準にとどまった。表現方法や文の作成にも荒さがあり、評者の今後の精進を切にお願いしたい。

 最後に今年度から書評賞の応募者に学生(大学院生を除く)に加えて社会人聴講生および市民利用者も含めることにしたことについて述べておく。より多くの方々が応募しやすいようにしたけれども、今年の市民利用者からの応募は極めて少なかった。私は、学生以外の応募者が優秀作となり、学生の書評が排除される可能性を危惧した。ラグビーの学生王者と社会人王者が最後に日本一を競うために毎年闘ったけれども、社会人王者が圧倒的に強くて試合にならなくなり、決定戦方式を変えざるをえなかったことが私の頭をよぎった。しかし、今年は杞憂に終わった。今後どうなるか注視したい。


第9回の応募要項はこちら





≪≪過去の書評賞≫≫

     第1回     第2回     第3回     第4回     第5回

     第6回     第7回     第8回