「第13回桃山学院大学図書館書評賞」受賞者 <2018年11月30日発表>


第13回桃山学院大学図書館書評賞には23篇の応募作品が寄せられました。 図書館書評賞選考委員会で審査した結果、下記の通り受賞作が決定しましたので発表いたします。
受賞作品は、1月中旬に図書館内で発表いたします。

受賞作一覧はこちら。
最優秀書評賞 該当作品なし
優秀書評賞 山下 太一 (経済学部3年次生)
辻村 深月 『かがみの孤城』
ポプラ社 2017年
佳   作 花田 朱理 (経済学部3年次生)
二宮 敦人 『最後の秘境東京藝大 : 天才たちのカオスな日常』
新潮社 2016年
佳   作 新井 慎 (経済学部3年次生)
宮下 奈都 『羊と鋼の森』
文芸春秋 2015年




総合講評

図書館長 法学部 滝澤 仁唱

 書評は、その元になる本がないとなりたたない。いわば本体に付属する影のようなものである。しかし、書評によって元の本が書き直されてより良くなる場合があり、影が本体を変えるときもある。書評によってまだその本を読んでいない多くの人々がその本を読むようになる可能性もある。書評は羅針盤のような役割をもつことがあるので、もっと重視されるべきだと私は考えている。

今年の書評賞の応募本数は23点であったが、審査対象外(出版後6年以上たったもの、本学で所蔵していないもの、応募フォーム設定外のもの)になったものが8点あった。審査対象になったものでも、本の紹介や単なる感想文もあった。ネット社会で横行している剽窃(コピペ)がないか、図書館事務室課員および教員の図書館委員が点検した。受賞作品の最終選考では、その本の内容と書評を逐一照らし合わせ、書評が妥当か図書館委員が点検した。

 今年の入選は、優秀賞が1点および佳作2点であった。
 優秀賞は、辻村深月『かがみの孤城』(ポプラ社、2017年)である。
物語のあらすじを上手くまとめるとともに、対象図書の特徴についてしっかりと言及出来ている書評である。特に、子供たちの精神的な成長を描いているだけでなく、周りの大人の心情についても丁寧に描写していることを指摘した点は、この本が単なる子供たちの成長譚にとどまらないことを的確に説明できており高く評価できる点といえる。
ただ、第3部の内容に関する説明で、「7人はそれぞれ別の時代から鏡の世界に来ていたのである。」との記述があったが、この点については直接的な記述を避けるべきであっただろう。評者は、この本の良い点の1つとして伏線の張り方およびその回収の妙をあげているが、「登場人物が異なる時代から集まっていた」というところはまさにこの物語における重要な伏線回収の箇所であろう。それは、筆者が読者にミスリードさせるための話を終盤に入れていることからも窺えることであり、この部分に関する記述にはもう少し工夫が欲しかったといえる。

 佳作は以下の二点である。


(1) 二宮敦人『最後の秘境 東京藝大 ―天才たちのカオスな日常―』(新潮社、2016年)
評者の書評の書きぶりが、本書の作者のそれと同じ雰囲気を漂わせており、どちらも軽快に読み進めていくことができる。本書では、東京藝術大学のメインキャンパスにある美術学部と音楽学部の特長や学生・教員の際立った個性を、両学部を対比させながら、紹介している。書評では、それらの内容一つひとつを紹介するのではなく、読者の興味をひくようなかたちで上手くまとめられている点は高く評価できる。
また、評者の「彼らは皆、好き・嫌いという次元を超えて芸術とつながっているのだ」という解説は、両学部の学生の底流にある共通性を本書から読み取った、評者独自の視点として優れたものである。
本書では、両学部の違いだけでなく、筆者が「美と音の化学反応」という言葉で表現する融合の部分についても最終章で書かれているが、それ以外の章の内容に比べて物足りなさを感じざるを得ない。そこが本書の限界であると思うのだが、評者はそのあたりについては、本文を要約するだけで済ませており、もっと踏み込んだ批評的なコメントがあっても良かったのではないかと思う。


(2) 宮下奈都『羊と鋼の森』(文藝春秋、2015年)

 書評は整然と書かれている。あらましを7行でまとめ、本書の良いところ4点、悪いところ2点、4行でまとめてある。この書評は、真っ当な本に対して、真っ当なことを書いたと思えた。
本を読み始めて、「羊と鋼の森」=ピアノに気づく。「羊(フェルト)のハンマーが鋼の弦を叩く」。外村の祖母は貧しい村で生まれ、若くして結婚し、三十代で夫を亡くし、牧場で働きながら、貧しいままシングルマザーとして娘と息子を育てた。「祖母は羊の世話をし、鋼(包丁)で子供に食わせ、森を見ていた。祖母は必死に自分の人生(森)を調律していた。ピアニストの夢を「病気」で諦め、ピアニストへの道を決意した姉(和音(かずね))のピアノを調律したいと言う一卵性双生児の姉妹の妹「由仁」(ゆに)。「ピアノで食べていける人なんてひと握りの人だけよ」という母親に対して言った和音の言葉は衝撃だ。「ピアノで食べていこうなんて思ってない。ピアノを食べて生きていくんだよ」。由仁は祖母だ。由仁(ゆに)はユニオン(調和、結合)のユニだ。由仁は全てを調和させる。外村は和音のために、「ほとんどすべてのピアノの調律に採用されている」平均律ではなく、「音の響きを優先した」純正律を採用した。純正律は「一音ずつの周波数の比が整数比になるように規定されている。」「いくつかの音を重ねたときに、周波数の比が単純であればあるほど、美しく響く」。この宇宙は波動に支配されている。「羊と鋼の森」は、全ての「夢」が「夢」となるこの世の地獄が少しでもましになるように全ての波動を調和させようと覚悟を決め、歯を食い縛って生きてきた(生きている、生きようとする)女性たち(著者、宮下奈都の同志)(へ)の物語だ。



第13回の応募要項はこちら





≪≪過去の書評賞≫≫

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