「第14回桃山学院大学図書館書評賞」受賞者 <2019年11月29日発表>


第14回桃山学院大学図書館書評賞には12篇の応募作品が寄せられました。 図書館書評賞選考委員会で審査した結果、下記の通り受賞作が決定しましたので発表いたします。
受賞作品は、1月中旬に図書館内で発表いたします。

受賞作一覧はこちら。
最優秀書評賞 該当作品なし
優秀書評賞 納谷 海斗 (社会学部3年次生)
『拳の近代 : 明治・大正・昭和のボクシング』
木本 玲一 / 現代書館 2018年
佳   作 坂本 英彰 (市民利用者)
『極夜行』
角幡 唯介 / 文藝春秋 2018年
佳   作 井上 保教 (社会人聴講生)
『なんとめでたいご臨終』
小笠原 文雄 / 小学館 2017年




総合講評

図書館長 梅山 秀幸 国際教養学部教授

 先日、日本の高校生の「読解力」が急激に低下しているとの新聞報道があった。今さらいわれなくとも、それは教育の現場にいる人間として日々ひしひしと感じ取っていることである。若者の活字離れが問題となって久しく、出版関係者と接触しても、業界の氷河期が長々と続いている様子は常々聞かされている。氷河は凍てついたまま拡がり続けている。すでにLiteracyの不足というより、今やIlliteracyの社会になりつつあるのかもしれない。ジョージ・オーウェルの『1984』ですら思い及ばなかった社会である。
 面白い本が出されていないわけではない。というより、実際には本自体がわくわくするような一つの未知の世界のはずである。一冊の本を手に取り、読み進んでいけば、新しい世界がひらけ、読み終えたなら、一冊分の世界を自分のものにしたことになる。そして二冊目、三冊目・・・生活の場を移さなくとも、無限に多くの世界を自分のものにすることができる。それは知識とか蘊蓄といわれるものとはまた別の人間としての豊かさを形成してくれるはずである。
 総評をするのに、思わず説教から初めてしまいそうである。今回の「図書館書評賞」の催しへの応募数は極めて少数で、12点であった。その中で決められた書式に沿っていないもの3点を除いた9点について第一次審査を行い、通った7点についてさらに検討して優秀作1点、佳作2点を選んだ。昨年度の応募総数は35点であり、10年ほど前までは100点を超える応募があった。実に残念な事態だといわざるをえない。この減少の傾向は、学生諸君の読書離れをやはり象徴しているように思われる。そして、さらに残念なことに、優秀賞、佳作に選ばれた3名のうち、2名は社会人の方であった。肩書への忖度なく、匿名性をもとに選んだ結果であり、社会に開かれた大学であり、地域にも貢献すべき図書館のあるべき姿として、けっして悔やむ必要もないし、ここで取り立てて言及するのは社会人の方に失礼だとは思うものの、やはり一抹の寂寥感に襲われざるを得ない。

第一次審査を通過したのは次の7つの作品を書評した7点である。

 1、 小坂流可著『余命10年』文芸社
 2、 角幡唯介著『極夜行』文芸春秋
 3、 木本玲一著『拳の近代:明治・大正・昭和のボクシング』現代書館
 4、 関谷大輝著『あなたの仕事、感情労働ですよね?』花伝社
 5、 有川浩著『レインツリーの国』KADOKAWA
 6、 鎌田洋著『ディズニーキズナの神様が教えてくれたこと』SBクリエイティブ
 7、 小笠原文雄著『なんとめでたいご臨終』小学館

これらの作品の書評を5名の図書館委員が選考した結果は、次のようになった。

優秀賞:3を取り上げた納谷海斗君
(社会学部3回生)

佳作:2を取り上げた坂本英彰さん
(市民利用者)

7を取り上げた井上保教さん
(社会人聴講生)

それら3つの書評についての評を以下に記す。


優秀賞 納谷海斗君:木本玲一著『拳の近代:明治・大正・昭和のボクシング』現代書館

 対照となる書物は興味を引く内容のものであるにしても、先鋭的な社会学を踏まえた文化社会学者の難解な語句や言い回しがないわけではなく、また厳密な考証も行われていて、必ずしも読みやすい本ではなかったと思われるが、ボクシングを例にとった海外文化の「ローカル化」について、その内容を的確に把握し、適切に紹介することができている。また全体としてこなれた文体で執筆されていて、書き出しのカリフォルニアロールの例も生きていて、評者の文章能力も優れているといっていい。一方、批評という点ではもう少し踏み込みがほしいところである。また、この本の「文化社会学を学ぶうえでは非常に分かりやすい」と記されているが、どういう点が分かりやすいのか、具体的に書くほうが望ましく、「最優秀賞」とするのはやや躊躇われる。


佳作 坂本英彰さん:角幡唯介著『極夜行』 文芸春秋

 対象図書の内容が整然と紹介されており、書評としての完成度は高い。
 なによりまず、極夜のもとでの数ヶ月にわたる探検の凄まじさや、極限状況に陥った探検家のゆれうごく心情、苦闘の末に探検家が到達した洞察など、対象図書のハイライト部分が実に手際よく抽出整理されており、対象図書の魅力をよく伝えている。
 さらに、地球上のあらゆる場所が探検しつくされた時代に探検家という「職業」は存在しうるのかという冒頭(第一段)の問いかけや、探検家の悟りを「原始的な宗教意識の始まりのようなもの」(第八段)と言い換えるあたりは、執筆者自身の独自の解釈による巧みな表現といえるだろう。
 おしむらくは、表現にいますこしの深みがほしいと思わせる箇所がなきにしもあらずという点であろうか。たとえば、探検家の試みを「地理的な体験にいわば内面への探検を重ねるという斬新な方法」とした部分(第二段)、あるいは「システム」という語の若干あいまいな使い方(第三段)、「困難の出現をチャンスととらえる姿勢は古典的な探検家にはない」(第五段)といった表現など。
 とはいえ、読む者をして対象図書を手にとってみたいと思わせるに十分な文章であり、本学書評賞佳作に値する秀作であることに間違いはない。


佳作 井上保教さん:小笠原文雄著『なんとめでたいご臨終』小学館

本書は、筆者小笠原文雄氏が医師として在宅医療でこれまでに関わってきた患者とのエピソードを紹介するものである。
書評では、本書の構成を示しながら内容を簡潔に要約するとともに、本書に込められたメッセージを読み取り、評者の見解を交え上手くまとめている。書評と対象図書の内容に矛盾点はみられず、文章も読みやすく記されている。
医療とは何か、筆者の医療に対する信念や考え方を読み解いていくなかで、筆者は死をどのように考えたらよいかという死生観を読者に問いかけているという解説は、評者独自の視点から述べられたものとして評価できる。また、筆者の献身的な看取り医療への共感を示しつつも、患者や周りで支える人々の死生観という観点から看取り医療の課題について言及している点には、本書を批評的に捉えようとする評者の姿勢が窺える。
ただ、本書の特徴(良い点と悪い点)に関しては、もう少し直接的な言及があってもよかったように思われる。


第14回の応募要項はこちら





≪≪過去の書評賞≫≫

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