【2015年度 卒業証書・学位記授与式 式辞】
卒業生の皆さん、ご卒業おめでとう! 卒業と修了の式にあたり、これまで皆さんが尽くされてきた努力と研鑽に対し、桃山学院大学の教職員を代表して心からの敬意を表したいと思います。また、この日までの長きにわたり皆さんの勉学と研究を支え、励ましてこられたご家族の皆さんに対しても、心からのお慶びを申し上げます。ご来賓の皆様方には、ご多忙の折柄、ご臨席を賜り誠に有難うございます。
今日ここに卒業される学部生は、1,283名、大学院博士前期課程修了生17名、大学院で博士の学位を授与された方6名、合わせて1,306名の皆さんが卒業を迎えられます。これまでに本学で学位を授与された卒業生総数は70,463名となります。卒業生総数約7万名は、大規模大学と比較すると、決して多い数とは言えません。そのような中で大変驚かされることがあります。それは各界で活躍する卒業生、すなわち皆さんの先輩達の姿を目にし、耳にすることが多いことです。日本ばかりではありません。世界で活躍されている方もおられます。
先日も、徳島県鳴門市にある大塚国際美術館の設立時の中心的なメンバーで、本学卒業生でもある田中秋筰さんにお会いしました。大塚国際美術館は、先日、『羽鳥慎一モーニングバード』というテレビ番組で「満足度日本一」の美術館として紹介されておりました。大塚国際美術館は精緻な技術力で、絵画を陶板に焼き付けた作品を展示しております。正直に申しますと、私も数年前初めて訪れた際、「コピーの美術館か」と軽い気持ちで訪れたのでした。しかし、見終わって、正直なところ感動いたしました。
昔、私がドイツへ留学していた折、美術館で見た光景が忘れられません。ピカソの「青の時代」と言われる作品を前に、小学生たちが車座になって授業を受ける姿が目に焼き付いております。先生が「この絵からどんな印象をうけますか?」と尋ねると、子ども達が次から次へと手をあげて答えておりました。なんとも贅沢で、羨ましい気持ちを抱いたことがあります。
大塚国際美術館に展示された作品群は世界に名だたる名品ばかりでなく、「本物以上に本物」と言いたいほどの出来栄えです。それが手に取るような近さで、時には触れて見ることもできるのです。しかも子ども達の学習のためにリーズナブルな費用で開放されています。この心優しい「満足度日本一」の美術館の開設に尽力されたのが皆さんの先輩でもある田中さんなのです。開設に至るまでの苦労話を伺いました。1枚1枚名品の複写の許可を取るご苦労には想像を絶するものがあります。皆さんも是非一度は訪れてみてください。きっと感動されることと思います。
また、本日の卒業式後に、本学同窓生であります谷村新司さんによる、トーク&ライブ「ココロの学校 ~音で始まり、歌で始まる~」が開催されます。谷村さんは本学に在籍された当時から「ロック・キャンディーズ」というバンドを結成して名を成し、さらに当時関西で人気を誇っていた「MBSヤングタウン」というラジオ番組のDJとして活躍されていました。音楽活動に忙殺された関係でわずかな単位を残して退籍されました。昨年、谷村さんが「紫綬褒章」を受賞されたことを祝して、本学としても晴れて名誉博士学位を授与し、さらに客員教授への就任をお願いいたしましたところ、ご快諾いただきました。
谷村さんは日本のみならず、アメリカ、イギリス、フランス、オーストリアをはじめとする欧米、さらにはベトナム、韓国、中国などのアジア各国で活躍され、本学が目指す「世界の市民」その人です。そればかりでなく東日本大震災の被災地でのコンサートを催し、被災者の支援活動にも力を尽くしておられます。そんな谷村さんが2007年より「ココロの学校」をスタートさせています。その基本コンセプトは「『強いられる勉強』ではなく『自らが望んで学ぶ』ための場所を創りたい」との想いから始められたそうです。
谷村さんのこうした生き方は、本学が建学の精神として標榜する「自由と愛」の精神そのものといってよいでしょう。「自由」とはひとりひとりの人格と主体性を尊重すること、「愛」とは互いに仕えあいながら他者と共生すること。音楽を通じて社会に尽くす谷村新司さんの姿は正に「愛の精神」であり、自発的に学ぶ場所を創りたいというコンセプトは、主体性を尊重するという「自由の精神」そのものです。
今、我々を取り巻く社会は激しい変化の時代を迎えております。グローバル化の進展は、資源の枯渇、環境破壊、世界金融不安、貧困など、人類全体で取り組むべき様々な課題を提起しております。また、情報通信技術の飛躍的進歩、インターネットの出現は、人間の知識創造とコミュニケーションの在り方に革命的な変化をもたらしました。2045 年には、コンピューターの能力が人間の能力を上回る技術的な転換点が訪れるという予測もあります。ある学者の予測によりますと、今後10~20年程度で、アメリカの総雇用者の約47%の仕事が自動化されるリスクが高いという結論を出しております。この予測がそのまま当たるかどうかはともかくとして、急速な技術革新により今まで以上のスピードで「機械に置き換えられる仕事」が発生する事態が多くなります。変化の激しい時代には、獲得した知識や技術もたちまち陳腐化し役立たなくなることも事実です。どのような社会の変化にも対応できる人間力・社会人力を身につける必要があります。そのためには学び続ける力、考える力を身につけなければなりません。
卒業する皆さんに、私からの贈る言葉としてお伝えしたいことは、「一生涯学び続けて下さい!」ということです。ここでいう「学ぶ」とは、知識を蓄えるということではありません。フランスの哲学者ロラン・バルトは「無知とは知識の欠如ではなく、知識に飽和されているせいで未知のものを受け容れることができなくなった状態を言う」と述べていますが、自説にこだわって相手を受け入れることのない反知性主義に陥ってはなりません。学びとは、他者への尊敬を踏まえて自分の中に他者を受け容れ、自分の知的枠組みそのものを作り変える「知の自己刷新」(内田樹)なのです。この精神を忘れることがなければ、皆さんはいずれ大きな大きな人間へと育つことになるでしょう。地位や名誉を求めるのではなく、視野の広い、心の深い、自ら立つ自由な人間になることを目指してください。「自由」と「愛」と「学び」、この3つのことを心に刻み、自信と誇りをもって社会にチャレンジしてください。多くの卒業生たちの活躍が証明しておりますように、自律的・能動的でしなやかな精神力を特性とする桃山スピリットをもつ皆さんは、一人ひとり「社会を切り開く秘めた力」を持っております。大いに羽ばたいてください。
これから社会に旅立つみなさんの前途が、実り豊かで悔いのない人生であることを祈念して、私からのお祝いの言葉といたします。
改めまして「卒業、おめでとう!」