プロ野球志望の野球選手からビジネスの成功を目指して転身した国際教養学部卒業生の上田裕貴さんは、米国シカゴに駐在して電子部品ビジネスの最前線で活躍しています。米国人部下の指導や顧客企業の信頼獲得などに奮闘している上田さんに、これまでの歩みやビジネスパーソンとして夢を語っていただきました。

野球に賭けた青春

高校野球の伝統校・浪商(大阪体育大学浪商高校)で甲子園を目指していました。外野手でしたが、レギュラーになることはできず、それでもプロ野球選手を目指して大学でも野球を続けることにしました。高校のコーチが勧めてくれ、浪商の先輩が野球部のキャプテンをしていた桃山学院大学に指定校推薦で入学しました。2年間頑張りましたが、「プロになるのは無理だ」と見極めをつけ、退部しました。プロ選手になることは諦めましたが、野球に関わる仕事に就きたい、野球の発展に貢献したい、と方針を転換しました。メジャーリーグの球団で働きたい、野球をオリンピック種目に復帰させるためにIOC(国際オリンピック委員会)で働きたい、などと考え、IOCで働くためには英語とフランス語、スポーツ経営学の学位が必要とわかりました。スポーツ経営学の7割はビジネス関連なので、大学3年から1年間、フランスの提携校のビジネススクールに英語で交換留学しました。

何をするにしても「野球」が全ての原動力だった、と語る上田さん

苦労した就活

4年夏に帰国し、日本プロ野球機構(NPB)やプロ野球球団への就職を目指しましたが、うまくいきません。そこで、「お金があればプロスポーツでいろいろなことが出来るだろう」と考えて、起業を目指すことにしました。キャリアセンターの方に相談したら、「起業も良いが、まずは大企業に就職してビジネスの流れを学んだらどうか」と助言され、4年の8月から大企業を目標に就活に取り組みました。
でもほとんどの大企業の採用活動は終わっています。5大商社などの東京本社を訪ね、受付で「履歴書だけでも見ていただけませんか」とお願いして歩きました。無理は承知でしたが、ある大手商社の人事の方は1階の受付まで降りてきて、「採用は出来ないが、将来どこかビジネスの現場で会おう」と言ってくださったり、「経団連加盟企業としては就職協定を破ることはできないので、来年入社試験を受けてください」という手紙をいただいた企業もありました。
就職浪人することも考えましたが、就職情報サイトで海外駐在の可能性がある企業の求人を探しました。NDKと大手タイヤメーカーの最終面接まで進み、NDKから内定の連絡をもらいました。迷っていたので「もう一社の選考結果待ちなので、もう少し待ってもらえませんか」と伝えたら、「上田君の人生なのだから、いいですよ」と待ってくれました。「温かい会社だな、骨をうずめてもいいな」と感じ、タイヤメーカーの結果を待たずにNDKに決めました。

フランス留学当時の上田さん(前列真ん中)
スポーツ経営学を学びNPBで働くという目標に向かって、学び続ける日々だった

海外売上高比率7割のNDKに就職

NDKは水晶発振子を中核に電子部品を製造販売するメーカーで、海外売上高比率7割のグローバル企業です。水晶発振子は様々な通信機器やセンサーなどの電子機器で重要な「周波数の基準」となる部品で、レーダー、カーナビ、エンジンコントロール、タイヤ圧センサーなど車載部品、携帯電話基地局や人工衛星など宇宙関連など、様々な分野で活用されています。安全性の要になるので高い信頼性が要求されます。「半導体は産業の米、水晶デバイスは産業の塩」と言われることもあり、当社は車載関連では世界シェア1位、全分野でもクォーツ時計など民生分野に強い日本メーカーに次いで世界2位です。
私は海外駐在を目指して入社し、海外営業部に配属されさました。産業機器の顧客を担当する部署で、北欧フィンランド、スウェーデンの大手通信機器メーカー、韓国企業などとのビジネスを3年間経験しました。

シカゴで米国のビジネス文化にもまれる

4年目に希望してシカゴに赴任しました。NDKアメリカでナンバー3のセールスマネジャーとして米国人部下とともに米国の東海岸とメキシコなど中南米を担当しています。赴任当初、日本とのビジネス文化の違いにはとても戸惑いました。まず、部下との関係です。日本なら先輩が後輩に厳しい命令口調で指示することは当たり前です。ところがアメリカでは役職の違いで「偉い」のではなく、人間としては対等の関係です。下位の役職の人でもその専門性に対して敬意をもって接することが求められます。ただ、マネジャーとして日本の本社の方針、戦略を徹底すること、部下の失敗も含めて全責任を負うことを求められる厳しい立場ではあります。
職場恋愛は、ほぼご法度です。少なくとも上司と部下が恋愛関係になったら首が飛びます。また、お菓子などのお土産を同僚や部下に渡すのも注意が必要で、直接手渡すのはNGです。えこひいき、賄賂ととらえられる恐れがあるので、キッチンなどに置くようにしなさいと指導されました。

上田さんが活躍する、大都市シカゴ
赴任当初は、様々な異文化に戸惑った

ビジネスの現場でも、当社の製品を扱っている代理店、パートナー企業に命令することはできません。いかに当社の製品を売りたいと思ってもらうかが、私たちの腕の見せ所です。また、ボストン、ニューヨークなどの顧客企業でハーバード大など有名大学出身の白人エリートは、当初「オレの言う通りに納品しろ」という態度で、こちらの提案など受け付けません。その中でどうやって信頼を勝ち取っていくかが重要になります。

信頼関係を構築するために地道な努力を重ね、
パートナー企業から優良企業として表彰されるまでに

米国公認会計士資格を目指し自己研鑽

あと1年シカゴで勤務した後、東京の本社に戻って2~3年国内勤務します。その後、再び海外勤務になる見通しですが、ヨーロッパ支社(ロンドン)などのトップを目指したいと思っています。そのために、米国公認会計士を目指して勉強しています。仕事との両立は大変なところもありますが、本社の経理部長などと話すときに、経理担当者の使う言葉の理解が深まって楽しいし、仕事に役立つと実感しています。
月1~2週間は米国東部や中南米を飛び回っていますが、趣味のゴルフや旅行も楽しんでいます。23年のワールド・ベースボールク・ラッシック(WBC)の観戦にも行きましたよ。

桃山学院大学は2026年に工学部を開設するそうですね。米国では技術者と営業担当者の中間的な存在であるFAE(フィールド・アプリケーション・エンジニア)という職種が活躍しています。技術的バックグラウンドと営業スキルを兼ね備え、顧客企業の技術的課題解決を提案する営業を行います。技術者に多い所謂「職人気質」とは違うミュニケーション能力を持っていて、重宝されています。米国の大手半導体メーカーの技術畑で部長などを務めてFAEになった人などがいて、かなりの高給取りです。新しい工学部では経営的センスも持つ技術者を育てるとお聞きしたので、FAEのような人材を養成していただければ、技術営業の最前線で大きな力になると思います。期待しています。

※2026年4月開設予定(仮称・設置構想中)

在学当時、留学に必要な英語力を磨くため毎日のように通い詰めた、ランゲージコモンズ
「ここへ来ると、当時のことが蘇ります」


(※この内容は2025年1月取材時のものです。)

国際教養学部についてはこちらから >>>