最難関の国家試験である司法試験は弁護士、裁判官、検察官という法曹の専門職に就くためのほぼ唯一の道です。法曹志望の小林大樹さんは家族の介護や自身の病気療養という困難を乗り越え、司法試験に一発合格しました。エリート官僚の登竜門である国家公務員総合職にも合格している小林大樹さんが、法曹を目指した理由や司法試験合格までの道のりをうかがいました。

司法試験に合格された小林さんに、お話を伺いました

元は警察官志望

元々法曹を目指す考えはありませんでした。実家は訪問看護の会社を経営しており、家族はみな医療系の職業です。私自身も理科系でした。中学時代から警察官志望で、中でも最先端の科学を捜査に活用する科捜研(科学捜査研究所)を目指したいと思っていました。何となく科捜研なら理科系か法律系かなと思いましたが、当時は科捜研に入る具体的な方法がわからなかったので、「警察官を目指すなら法学部だろう」と考えて法学部に進学しました。
桃山学院大学に入学してからも3年次ごろまでは漠然と公務員志望でした。転機になったのは二つの映画です。

法曹の役割の大きさに感銘

アメリカ映画『I am Sam(アイ・アム・サム)』と日本映画『それでもボクはやってない』を観て、法曹に関心を持ちました。『I am Sam』は知的障がいを持つ父親と娘の愛情と絆を描いた映画ですが、父の養育能力が無いと判断した児童家庭局(日本の児童相談所のような組織)によって引き離され、里親に預けられてしまいます。主人公は裁判で親権を取り戻そうとしますが、親子に寄り添って奮闘する弁護士の活躍に心惹かれました。一方、『それでもボクはやってない』は電車内で痴漢をしたとして起訴された主人公が無罪を訴える映画で、法廷での検察官が悪役として描かれています。
「本当に検察官がそんなに問題なのだろうか」と疑問を感じ、実際の裁判を傍聴してみました。法廷での検察官は理路整然と起訴内容を立証しており、むしろ魅力を感じました。司法試験を受験するため桃大卒業後に進学した法科大学院では現役検察官による講義もあり、司法試験に向けた法律解釈などの内容も検察実務の話も大変面白くためになりました。
一方で、アルバイトをしていた時代に働いていた会社で生じた同僚の給与問題に対し、その同僚の話は聞くことができても、法的な知識を持ち合わせていない自分には何の力にもなることができない不甲斐なさを感じたこともありました。
こうした経験から、弁護士や検察官など法曹の仕事に魅力を感じ、志望するようになったのです。

映画や実際の裁判での姿を見て、法曹という仕事に憧れを抱きました

家族の介護と経済的な理由で法科大学院を休学

大学時代は刑法が一番好きだったので、2年次から江藤隆之ゼミ(刑法)に所属しました。当初は公務員志望でしたが、4年次のときに司法試験を目指そうと決意しました。江藤教授に法科大学院への推薦状をお願いしたところ、「君は実務家より研究者に向いている」と言われたことを覚えています。
大学時代に司法試験に向けて勉強したわけではなかったので、法科大学院は未修(大学で法律を専攻していない)コースを選びました。入試の科目も少なかったし、3年制でじっくり学べます。

江藤教授(右):小林君は元々思考力がある。問題を見つけたら自ら考え、
文献などを調べ結論を導き出す能力が高いので、研究者向きだと思っていたんです

ところが、1年過ぎた段階で2年半の休学を余儀なくされました。祖父が認知症と緑内障となり、祖母がパーキンソン病を発症したうえ寝たきりの状態に、母がガンになってしまったのです。母は訪問看護事業所の経理を担当していました。私は看護師である父が担っていた祖父母の介護と経理の仕事の一部を手伝うことになりました。経理の手伝いは今も続けています。2年前に祖母が亡くなり、法科大学院の残り2年の課程を履修し、一昨年3月に修了しました。

司法試験に「一発合格」

法科大学院修了者は5年間で5回の司法試験を受験できます。その間に合格できないと、法曹への道はほぼ絶たれます。昨年の司法試験は本番10日前に盲腸炎から腹膜炎になり、手術・入院のために受験できなくなってしまいました。今年7月の司法試験が1回目の受験で、11月に合格できました。

取材の日は、江藤ゼミの授業日
模擬裁判教室で行われた授業には、小林さんも参加されました

法科大学院は判例を中心に法律解釈を深く学びます。私は特に得意な分野はありませんが、苦手な分野もありませんでした。(江藤教授:そこが司法試験における小林君の強みだ。)しかし司法試験で差がつくのは知識の量ではなく、「処理能力」なのです。課題文を読み解くスピード、論理を組み立てるスピード、そして答案にまとめる筆記力・文章力が必要です。もちろん判例解釈などの深い知識、洞察力は重要で、法科大学院ではそのような法律の奥深い世界を学ぶことができました。幸い今年、1回目の受験で合格できましたが、2年前に合格した国家公務員総合職試験は合格後3年間有効ですので、今年司法試験がダメなら国家公務員になるつもりでした。

授業では、後輩学生が作成した「法的因果関係に関する諸説の比較」について、
詳細なアドバイスを送られていました

司法修習で目指す法曹像を追求

春から司法修習が始まります。検察官や弁護士、裁判官としてあるべき刑事裁判の実現に貢献できるよう、法曹としての心構えや姿勢を学んでいくつもりです。
最近問題になっている冤罪事件では、最後の歯止めは裁判官だとは思います。しかし、起訴権は検察官個人にあるので、起訴権を濫用するようなことがないよう、もし検察官になったら真摯に仕事に取り組む原点を忘れないようにしたいと思いますし、弁護士になれば、捜査の問題点などを見逃さない弁護活動をするつもりです。その他にも、親権問題や労働問題、企業法務への関心も高く、今後積極的に取り組みながら公正な刑事裁判を実現するため法曹としての実力を蓄えていきたと思います。

桃大時代のエピソードや、様々なお話を聞かせていただきました
終始和やかな雰囲気でしたが、やはり法律に関する話になるとキリッとした空気に
法の秩序を守る一人として、これからのご活躍をお祈りしています!


(※この内容は2025年3月取材時のものです。)

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