法学部で社会科教諭の免許を取得すると同時に、他大学とのダブルスクールで小学校教員免許も取得した井上大さんは、大阪府和泉市の市立小中一貫特認校「槇尾学園」の立ち上げメンバーとして活躍しています。生徒が自ら課題を発見し、解決策を模索する探究型授業「槇尾学」に力を入れ、生徒たちの学びを全力でサポートしています。

小中一貫校の立ち上げにかかわる

和泉市立槇尾学園は小中9年間の一貫教育に取り組むとともに、和泉市内全域から入学可能な特認校です。私は和泉市内の大規模校で社会科教員をしていましたが、小学校教員免許も取得していることなどを評価いただき、3年前に槇尾学園の前身校の一つである槇尾中学校へ異動、槇尾学園の立ち上げ準備に取り組みました。市内の小中学校から選ばれたスタッフが協力して教育内容や運営方法を検討し、探究型学習と英語教育に特化した少人数教育を目指すことにしました。
和泉市の山間部、和歌山県と接している地域の南横山小学校、横山小学校、そして槇尾中学校を統合し、2025年4月、槇尾学園が開校しました。和泉市内2校目の小中一貫校です。山間部の小規模校なので、市内全域から児童生徒を受け入れています。各学年、地元出身の子どもは約20人で、30人は市内全域からスクールバスで通学します。探究型授業に力を入れる教育方針が評価され、2026年4月入学生の志願倍率は7倍となっています。1学年50人、1学級25人の少人数教育で、子どもたち自らが課題を発見し解決法を考え、実践する授業の実現を図っています。

中央に交流スペースを設けた槇尾学園の校舎には、地元素材である「いずもく」が使用されており、
暖かな雰囲気のなかで学ぶことができる(槇尾学園提供)

探究型授業「槇尾学」

探究型授業の中心になるのが「槇尾学」です。地域の問題、自分たちが直面する課題の解決を通じて、教室の中だけではできないことを学びます。槇尾学以外の授業の中でも探究型授業に取り組んでいます。
1年生から6年生までは「教科書に書いていない問いを、教科書に書いてある内容を基に解決する」という探究型学習を行っています。例えば社会の授業で九州について調べるときには、「九州の修学旅行2泊3日の内容を考える」というテーマで様々な角度から九州の特色などを調べます。数学では、地元企業から提供してもらう60リットルのミカンジュースを、地域の祭・槇尾っ子まつりで販売する500ml入りと180ml入りの容器に分ける際に、最大本数・最大売り上げになるにはどうすればよいかを計算してみます。
2025年度の槇尾学では米価をはじめとする物価高に着目。「どうして物価が上がっているのだろう」と桃山学院大学経済学部の先生に経済学の基礎を講義していただきました。「物価高は学校の運営にも関係があるのではないか」といったように、子どもたちには複合的に課題を見出す力も育っていると実感しています。

探究型学習「槇尾学」の様子
「教科書に書いていない問いを、教科書に書いてある内容を基に解決する」をテーマに、子どもたちは自由に学んでいる

生徒自ら農業に挑戦

9年生(中学3年生)は5月下旬~6月上旬に沖縄を訪問する修学旅行で、沖縄戦の戦跡などの見学以外に、マリンスポーツなどのアクティビティも組み込む予定ですが、費用の高騰で「バナナボートに1回乗るのが精いっぱい」という状態になっています。そんな課題の解決に、7年生(中学1年)と8年生(中学2年)が取り組んでいます。地域の耕作放棄地を地主の農家の方に借りて農作物の栽培し、加工、販売することにより、修学旅行に足りない費用を「自分たちで稼ごう」というのです。農家との交渉は、子どもたちが自らが行います。8年生はサツマイモを栽培して加工し、秋の槇尾っ子まつりで販売することにしました。7年生は地元のアグリセンターと連携し、ミカンジュースの販売と、野菜(白菜、ジャガイモ、金時ニンジン、玉ねぎ、天王寺かぶら、ニンニク)の栽培に取り組みました。
特に7年生は、ミカンジュースの容器に張り付けるラベルをデザインするラベルデザイン班と農業班に分かれ、デザイン班はプロデザイナーによる講義のもと、自分たちでデザインを考え、和泉市内全中学校の教員を前にプレゼンテーションを実施。採用デザインをコンペ方式で決めました。

子どもたちがデザインしたラベルを貼ったみかんジュース

農業班は夏休みに耕作放棄地に生えた雑草の除草、耕運機をつかった耕し、苗を保護するマルチシートの敷設に取り組み、苗を植え付けました。天王寺かぶらは、そのほとんどを害虫に食い荒らされてしまいましたが、そこで教員は手を差し伸べることなく、グッと我慢。子どもたちが様々な気づきを得るまで見守りに徹しました。天王寺かぶらが害虫の被害にあう一方で、金時ニンジンとにんにくには害虫被害がみられないことに気付いた生徒が「天王寺かぶらの周りに、金時ニンジンとニンニクを植え付ければ、害虫を防除できるのではないか」と提案しました。実はこの方法、実際に有機農業の現場でも取り入れられたことがある方法だったのです。それを、子どもたち自らが失敗から考察や工夫を重ねてひとつの答えを導き出した。正に、探究型授業の成果といえる出来事でした。

実際に自分たちの力で農業に取り組む子どもたち
実践的な探究型学習を大切にする「槇尾学」の、象徴的なシーン

探究型授業は、教える方の教員にも教科以外の知識が求められますが、私たち教員一人ひとりも探究型授業の指導を楽しみながら取り組んでいます。

11月に実施した桃山祭(学園祭)では、槇尾学園の子どもたちも出店
探究授業を通じて育てた野菜や、みかんジュースを販売

「なぜ勉強するのか」を大切に

探究型学習に力や時間をかける槇尾学園ですが、卒業後の高校進学(受験に向けた勉強)にむけた学習も行わなければなりません。子どもたちには、常に「なぜ勉強するのか」を伝えることを大事にしています。
市内全域から志願して入学してくる児童生徒の保護者は探究型授業に期待していますし、地域の皆さんも全力で槇尾学園をサポートしようという気持ちを持っていただいているので、探究型学習への理解、協力は十分に得られていると感じています。全国的な公開授業も行い、探究型学習の先進的な取り組みをしている著名な先生からも「このままでいいんじゃないか」とお墨付きもいただくことができました。
私は小学校教諭の免許も持っていますので、中学にあたる7~9年生だけでなく、5~6年生の社会の授業も受け持っています。小学生と中学生とは教え方も違い、面白いですよ。様々な学年の子どもたちに授業ができるのは、小中一貫校の特徴ですね。

答えを教えるのではなく、子どもたちが「気づき」を得るために伴走すること、
そして何よりも、探究そのものを先生も一緒に楽しむことが大事だと思っています

友人と支え合って教員に

ドラマ「ヒーロー」の影響で検事に憧れをもち、法学部に入学しました。入学後、法学に関する勉強を進める一方で、私の周りには教職を目指す友人が多くいました。また当時、高校時代まで取り組んでいたサッカーのコーチを高校でやっていたこともあって、「若い人を育てる仕事、誰かを支える仕事をしたい」と次第に考えるようになりました。そのような経緯で、私も友人たちと共に教職課程を受講、本気で教員(中高の社会科)を目指すようになりました。
小学校教諭の資格を目指したのは、「より子どもたちと関わる場を広げたい」という思いからです。
小学校教諭の資格を取るためには、桃大での教職課程(中高免許)に加えて、他大学(通信課程)も受講する必要がありました。夏休みには同大のスクーリングに参加し、全国から集まってきた小学校教諭志望者から刺激を受け、励みになりました。
最初の教員採用試験は不合格でした。そのため、1年目は大阪府の講師として登録。別の市からもオファーを頂きましたが、最初に連絡をいただいた和泉市の中学校で社会科の講師を務めました。そして翌年、大阪府の教員採用試験に合格し、引き続き和泉中学校の教諭になったことが、今の槇尾学園での様々な挑戦につながっています。

学生時代、共に切磋琢磨した友人たちは、今も大切な「教員仲間」

現在、探究型授業に協力していただける企業や、桃山学院大学を含む大学などを登録した「企業バンク」を組織していて、子どもたちはこれらの企業や大学などの協力を得ながら伝統工芸品や中小企業の新商品開発などにも取り組むことができています。
前任校でも探究型授業に近い取り組みに挑戦しましたが、大規模校なので思うようにはできませんでした。槇尾学園で探究型授業のノウハウを磨いていき、将来は学校の規模に関係なく和泉市内のどの学校でも探究型授業ができるようにしたい。その目標に向かって、これからも頑張っていこうと思います。

子どもたちが「学ぶって楽しい!」
そう思える学校・授業をこれからも追及していきます!

〈和泉市立 槇尾学園〉
https://www.city.osaka-izumi.lg.jp/school/gimu/makio/syoukai/index.html


(※この内容は2025年11月取材時のものです。)

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