著者インタビュー

第14回 『小学校国語 物語の「自力読み」大全』

二瓶弘行(人間教育学部 教授・教育監)

「小学校の国語の授業では、どうして短い作品を何時間もかけて読むの?」。子どもだけでなく大人でも、このような疑問を持ったことがあるのではないでしょうか。人間教育学部の二瓶弘行教授による編著『小学校国語 物語の「自力読み」大全』(明治図書出版)には、その問いの答えが記されています。国語教育界のレジェンドとして知られ、講師を務めるセミナーはすぐに定員が埋まるという二瓶教授に、本書への思いを聞きました。

国語教育界のレジェンド、
二瓶弘行 人間教育学部教授・教育監にお話を伺いました

■一般の公立小学校でも「自力読み」はできる

二瓶先生は、教科専科制の筑波大学附属小学校で、国語教師を24年間経験されています。まず、これまでのご経歴を教えてください。

学生時代は早稲田大学の文学部に所属していました。中学・高校教諭の免許状を取るための授業は受けていましたが、小学校教諭になることは考えていませんでした。授業で灰谷健次郎の小説『兔の眼』と『太陽の子』を読んで感想を書くレポート課題があり、初めて小学校の先生の世界を知って関心を持ち、小学校教諭になる道が見えてきました。大学卒業後に小学校教諭の免許状を取得するため玉川大学で学び、ふるさとである新潟県の公立小学校で教えるようになりました。教師をして10年ほど経った時に、上越教育大学の大学院で2年間の内地留学する機会をいただきました。その後、当時のゼミの先生の推薦もあり、東京の筑波大学附属小学校へ。そこで24年間国語教師を勤め、大学院で研究していた「物語の授業づくり」の研究も進めました。2018年から本学に在籍しています。

灰谷健次郎著『兔の眼』と『太陽の子』。
この二冊が、当時の二瓶青年に「小学校教諭」という道を示してくれた。

『小学校国語 物語の「自力読み」大全』は2025年8月に刊行されました。本書を出版することになった経緯をお聞かせください。

これまでに、明治図書出版から私の編著で小学校国語の「大全」シリーズが6冊出版されており、「話すこと・聞くこと」や「書くこと」の授業技術などがテーマでした。今回は、私が提唱する「自力読み」で1冊の大全を作る依頼が出版社からありました。出版後から出版社の売り上げランキングで上位に入り続けているそうで、うれしいことです。
「自力読み」は私が造った言葉です。私の修士論文のテーマが「学習者主体の文学教材指導の追求」で、学習者が主体的に物語を読み進めることを「自力読み」と言っています。教科書にも学習指導要領にも「自力読み」という言葉は出てきませんが、筑波大学附属小学校時代から「自力読み」の用語は使っています。これまでに編著、単著を含めて数十冊の本を出版しており、2013年に東洋館出版社から出した『物語の「自力読み」の力を獲得させよ』で初めて、「自力読み」をタイトルに入れました。

これまでに出版した本は数十冊に及ぶ。その中でも、「自力読み」を初めてタイトルに入れた
『物語の「自力読み」の力を獲得させよ』(東洋館出版社・右の2冊)には、特別な思い入れがある。

本書は編著者が二瓶先生で、著者として国語授業の研究会「国語授業のアスヲテラス会」の先生方が名を連ねています。どのようなメンバーが担当されたのでしょうか。

「国語授業のアスヲテラス会」のメンバーは、私が提唱する「自力読み」を各地の現場で実践している人たちです。今回の本では、まず私が「自力読みとは何か」を解説し、その提案をいかに教室で具現化するかを3人の力量ある先生たちが実践を通して執筆しています。本書では、「自力読み」は教科専科制の筑波大学附属小学校だからできるのではなく、一般の公立小学校でもできることを提案しています。

■物語の確かな読み手を育てる

第2章では、「用語で見る『自力読み』の力を獲得させる物語の授業」として、「場面」、「人物」、「作品の心」など13の要素が紹介されています。この章で、特に伝えたいことは何でしょうか。

子どもたちが「作品の心」を受け取ることができた時に、その物語を「確かに読めた」と実感できます。小学校の国語の授業では、短い物語を何時間もかけて詳しく読み、教師や仲間と話し合います。なぜこのようなことをするのか。1回だけの読書でも何らかの感想を持てますが、あえて読み直すと、それまでに見えてこなかった言葉や言葉の裏にある意味、言葉と言葉のつながりが見えてきます。すると、1回目に読んだ時とは感想が変わり、「ああ、そういうことだったのか」と気づくことがたくさん出てきます。読み直した自分に、物語が「生きるって、こういうことなのよ」と語りかけてくるのです。それを私は「作品の心」と呼んでいます。物語からの語りかけを、単なる感想ではなく、自分なりの短い言葉でまとめられた時に初めて、作品の心を受け取れたことになります。
子どもたちはたとえ10歳でも、10歳なりの人生を経験しています。物語からの語りかけに、自分の家庭環境や友だち関係などを振り返って、表現しようとします。同じ物語を十数時間、同じクラスの仲間と一緒に読むのに、受け取り方は子どもによって多少異なります。他の子どもが発言する言葉に、「僕とは違うけど、分かるな」と思ったりするのです。教師は何となく繰り返して読むのではなく、子どもたちが「確かに読めた」と思えるように、「自力読み」の観点で読み進めることが必要です。

どのように、「自力読み」の観点で読んでいくのでしょうか。

例えば、「まず、場面を捉えることから始めよう」、「あらすじを捉えてみよう」、「そもそも登場人物は誰だろう」、「作品の山場(クライマックス場面)はここだね」というふうに観点を示して読み方を教えます。山場には大きな変容があり、そこに着目することで、子どもたちは「何が変わったんだろう」と自ら問いを立てられます。
国語の授業で1年間に読む物語は3、4作品。1つの物語で「自力読み」を学んだら、次は別の物語から同じように学び、6年生まで系統的・段階的に、「自力読み」の力をつけていきます。子どもによって力の差はありますが、6年生で作品の心を受け取れる、物語の確かな読み手を育てたいと思っています。小学校時代に作品の心を受け取る体験をしていると、大人になってからも物語を読む面白さが分かります。物語が「生きるとは」「人間とは」と語りかけてくるのは、大人になってからも同じ。社会人として忙しく生活していても、小説や文学作品などに手が伸びる人であってほしいです。

物語が「生きるって、こういうことなんだよ」と語りかけてくる。
そのような「作品の心」を受け取ることができるよう、
国語の授業では何度も1つの物語を読み込んでいきます。

■「自力読み」の本の第2弾が、2026年夏に刊行予定

本書を刊行された後、どのような反響がありましたか。

本書の売れ行きが良く、2026年夏に明治図書出版から「自力読み」の本の第2弾を出すことが決まりました。「大全」シリーズとは別の形になるようで、「自力読み」を実践している先生の原稿が集まりつつあります。 明治図書出版の協力で出版社の会議室を会場に、みんなの「自力読み」セミナーがこれまでに5回開催されています。5回目の開催は2026年3月1日で、テーマは「深めよう定番教材~新しい読みを求めて~」。私の講演や現場の先生方による国語の授業づくりについての話があり、本書とも深く関わるセミナーでした。
国語を教えている先生の中には、「物語の授業は楽しくない」という人が少なくありません。読み聞かせなら子どもたちは生き生きとした表情を見せるのに、物語の授業になると先生自身が何をどう教えていいのか分からず、子どもたちは退屈な表情をするからです。「自力読み」のことを本やセミナーで知り、「自力読み」を実践した先生からは、「子どもたちがいい表情をして学ぶようになった」「もっと深く自力読みを知りたい」という反響があります。物語の授業の面白さにようやく気づき始めた、という人もいました。今まで読めなかったところを読めるようになったり、これまでとは違う読み方ができたりすると子どもたちはいい顔をしますし、その姿に先生はやりがいを感じるのでしょう。

スマートフォンやAIが身近にある時代ですが、子どもたちは変わってきていますか。

学生も含めて文章を読まなくなっています。手書きをせずに文字を打つことが日常になっているので、文章ではなくセンテンスで表現しがちです。スマホの画面に慣れているから、改行したり段落を変えたりしないので、言葉を受け取る側に伝わりにくいです。AIやICTは絶対に必要ですが、人に伝わる文章を書く、文章を読んで自分の考えをまとめるという行為からはどんどん離れ、論理的思考力が弱くなっていくのではないかと危惧します。
それに、想像する力や人の悲しさ、さみしさ、喜びを共感する力も弱まっているように感じます。子どもたちだけのことではなく、社会全体にそういう傾向がありますね。本当かどうか分からないSNSの情報にすぐに反応して言葉を返し、返した言葉を読む人がどんな思いをするかを考えない。このような社会だからこそ、小学校の授業で文章をしっかり読み、人の気持ちを想像する力をつけることがとても大事です。子どもたちは物語を通して、人はどんな時に泣き、どんな時に悔しくて、うれしいのかが分かっていきます。物語を詳しく読めば読むほどに人の気持ちに触れますし、想像力や共感力が育ちます。ますます、自力読みは大事になっていきます。

顔の見えない相手とも、簡単に言葉をやり取りできる現代。
こんな時代だからこそ、「言葉が持つ影響」を考えられる力が大切です。
物語を通じて人の気持ちに触れ、創造力や共感力を育む「自力読み」は益々重要になっています。

二瓶先生の今後の抱負を教えてください。

今、私は大学教員ですから、子どもたちに直接、「自力読み」の力を育てる授業はできません。その代わりに、物語の確かな読み手を育てられる教師を1人でも多く育成するのが私の仕事です。人間教育学部の学生は、子どもが好きで子どもを育てたいという思いで学び、教師になっていきます。ですが、一生懸命に授業をしても1年くらいの経験では、なかなかいい表情を子どもたちはしてくれません。そのような時に、学び続ける先生であってほしい。現場の先生方がより良い授業ができるように、「自力読み」の本を出したり、セミナーや研修会を開いたりしています。私にできることを考えて、これからも取り組んでいきたいと思います。

 
プロフィール

にへい・ひろゆき/早稲田大学第一文学部を卒業後、新潟県内の公立小学校に10年間勤務。その後、上越教育大学大学院国語教育の修士課程を修了。1994年から筑波大学附属小学校教諭として24年間勤める。2018年から桃山学院教育大学(現・桃山学院大学人間教育学部)教授・教育監。東京書籍小学校国語教科書『新編 新しい国語』編集委員。