お知らせNEWS

  • HOME
  • お知らせ
  • 第18回 桃山学院大学図書館書評賞についての講評
2025/01/15
  • お知らせ

第18回 桃山学院大学図書館書評賞についての講評

【 総合講評 】 

図書館長 小島 和貴 法学部教授

 活字離れが指摘される中、力作と思える作品に出会うことができました。受賞者の皆様、おめでとうございます。審査員からは、書評作品に触れたことで実際に自分も読みたくなったとの指摘もなされました。本との対話はアカデミズムの基本・原点です。アカデミズムが批判可能性を持って成立するのであれば、これを可能とする情報を提供してくれるのが本です。本があれば100年前の人類の思想や行動様式も知ることができます。本とは実に便利で有益なものです。しかし、本の数はあまりにも多く、一人の人間が読むことのできるものは限られるのも現実です。こうした現実を見るとき、人が読みたくなるような情報を提供してくれた今回の受賞者の皆様の成果は素晴らしいと言えるでしょう。
 書評賞の選考に携わり、大きく二つの傾向があるように思われます。一つは本の主題について、同様の作品や過去の出来事、あるいは歴史的事実などを取り上げながら自分が選んだ本を評するというものです。二つ目は本の主題について主に評者の経験に照らしながら評するというものです。どちらの要素もともに重要ではありますが、自ら選んだ本を同様の主題を追求する他の作品と比較し、そして歴史的事実に照らしながら、その良い点や課題などを提示することができると、より読み手に説得力を与えます。もちろん、個人の経験は尊いものです。しかし同時に個人の経験は主観的なものとなってしまうことがあり、評者の視点が独善的とも思えるものになってしまうこともあります。そのため自らの経験を客観化する作業が求められることになります。
 これは大学での研究も同じことが言えるかもしれません。例えば、「大学で学ぶ」という主題を提示した時に、自身の経験に照らせば、自分が学んだ学校、受講した講義、ゼミなど限られた情報に基づいて見解を提示することになりますが、これを日本の大学の数や学ぶことができる学問領域、諸外国との比較、例えば日韓の進学率や日米の学費などを通して見ると別の側面が見えてきます。そして大学の数や日韓の進学率などに基づけば本人のみならず第三者からも本人の主張を検証することができます。大学での研究ではこうした反証可能性が大切であるということです。
 大学で学び、研究する者にとって本を評するという作業はとても良い訓練となります。ただ、書評への取り組みにあたっては、著者への敬意を重んじる姿勢を忘れるべきではなく、これを実践するためには著者に恥ずかしくないと言える程度の情報収集とその批判的検討が求められます。書評は「楽しい」作業ではありますが、その対象はその著者がもてる力を全て注いで創り出したものであるということを忘れないようにしたいものです。
 今回より、書評賞に応募できるのは本学学部学生に限られることとなりました。そこでここでの応募作品は大学での高等教育を受けるという成長過程の一コマとなります。受賞された皆様はもちろん、ご応募いただきましたすべての皆様にとって、この書評賞への取り組みが本との新たな「対話」の起点となり、改めて本との付き合いを見つめ直す契機となることを願ってやみません。