江川暁夫教授(経済学部 経済学科)が分担執筆した書籍『Sustainability of Economic Growth in East Asia: Toward the Post-COVID-19 Era』がSpringerより刊行されました。
江川教授は、開発ミクロ経済学、国際政治経済論を専門としており、タイの低所得者向け政策の効果、ASEAN経済統合を研究テーマとしています。
当該の書籍において江川教授は、第6章 "Changes in Thailand’s Poverty and Income Inequality Caused by COVID-19: Assessment Using Normative Measures"を執筆しています。
<要約>
タイではCOVID-19の発生にもかかわらず、貧困率は2020年にわずかに上昇しただけでその後はCOVID-19以前の水準を大幅に下回り、ジニ係数も2020年と2021年に横ばいの後、2022年に低下した。タイ政府は、これらが特に低所得世帯に対する政府の支援措置によるものだと述べる。しかし、所得格差の改善・悪化を判断するには、所得分布の時間的変化に関するより詳細な分析が必要である。すなわち、ローレンツ曲線と一般化ローレンツ曲線を異時点間で比較し、それらが交わらない「ローレンツ優位」あるいは「一般化ローレンツ優位」と呼ばれる関係が見られるかどうかを検証(規範的尺度により検証)する必要がある。
本章では、パンデミック期のタイに関し、各年のローレンツ曲線、一般化ローレンツ曲線の導出を通じて、この検証を行った。結果、2019年から2022年にかけては、ローレンツ優位性も一般化ローレンツ優位性も保持されなかった。2022年のタイのジニ係数の低下は、必ずしも所得分配がパンデミック前から改善したことを示さない、ということである。また、低所得者向けとした政府の政策措置は、2022年までにおいて、2019年時点での社会的厚生と同等以上の状態を実現したと明確に結論付けることもできないことが実証された。
【参考URL】
▼Springer Webサイト
"Changes in Thailand’s Poverty and Income Inequality Caused by COVID-19: Assessment Using Normative Measures"
▼本学Webサイト
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